軽快な会話劇の巨匠リンクレイター作品三選

軽快な会話劇の巨匠リンクレイター作品三選

リチャード・リンクレイター監督と言えば、1988年のデビュー(「It’s Impossible to Learn to Plow by Reading Books」日本未公開)以来、その軽快な会話劇で全世界を魅了してきた現代の巨匠の一人です。ベルリン国際映画祭の監督賞以下、受賞歴も華々しく、また彼のファンを公言するのは、イーサン・ホークやジャック・ブラックなど、世界のビッグネームばかり。
とは言っても、日本では単館上映が基本であり、まだまだ知名度は高いとは言えません。前作「6才のボクが、大人になるまで。」で彼の存在を知ったという観客も少なくないのではないでしょうか?
そこで、今回は、そんな彼の作品の中でも珠玉の三作品を一挙に公開したいと思います。

① 「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」(1995)、「ビフォア・サンセット」(2004)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013)

いきなり三作品一気に紹介ですが、こちらはシリーズものなのでまとめさせていただきました。ご了承くださいね。
一作目のベルリン国際映画祭監督賞を皮切りに、様々な批評家から高い評価を受けた今作は、9年後に「ビフォア・サンセット」を制作します。この際、メインキャストの二人は脚本執筆に参加し、第77回アカデミー賞の脚色賞に3人がノミネートされました。さらにそのチームワークは「ビフォア・ミッドナイト」でさらに固いものとなり、同作でも、リンクレイターとホークとデルピーが共同で脚本を執筆しました。
賞レースの受賞歴こそ地味ですが、Rotten Tomatoesなど、世界規模の映画批評サイトで軒並み高評価を受けた今作は、映画好きのカップルのバイブルともいうべきシリーズです。

【解説】
とある男女が、列車の中で出会うシーンからこの映画は始まります。そこから、なんだかんだあって二人は途中下車し、散歩だけのデートを経て、その出会いを運命だと感じ合うに至るわけですが、シリーズを通し、二人は一度別れ、再会し結婚し、子どもを設けます。そんな1995~2013の18年間を、三作品で丁寧に追ったシリーズなのです。
丁寧に、と前述しましたが、空白の9年間ずつを補完するように喋りまくる会話劇のみの今シリーズ、本当に喋っているだけです。しかもその会話は、現実の会話がそうであるように、脱線し、比喩に溢れ、ちょっとしたきっかけでいさかいに発展し、なかなか本題からそれまくります。しかも、主演を演じたジュリー・デルピーとイーサン・ホークのほぼ二人芝居。言いたくないけど予算も相当安いでしょう。でもね、面白い。面白いんだからすごい。
会話のみで、二人は恋し合い、喧嘩して、別れて、結婚までこぎつけ、愛とは何かを探り合う。その様を、豊富なウィットで描き切った脚本がとにかく素晴らしいのです。
誰かが言いました、人間とは言葉を得た猿であると。その言葉通り、人間とは何かまでも、この豊かな会話劇から覗けそうです。
観終わった後、大切なパートナーと、友人と、家族と、きっとたくさん話したくなります。

② 「6才のボクが、大人になるまで。」(2014)

同じキャストで12年間の家族を描く映画。まさかそんな面倒で、しかも利益の少なそうな企画を実行する監督がいるはずないと思いました。
まず、子役にとっての12年間と言えば、非常に変化が激しい年頃ですから、狙い通りのルックスに成長してくれるとは限りませんし、進路に悩んだ結果俳優業を廃業してしまう可能性だって大いにあります。大人のキャストだって、事故や借金やその他もろもろ、何があるかわかりません。長期の企画というのは、映画に限らず困難ですが、映画とはその中でもとりわけ困難だと言えます。しかも、家族の映画。地味です。スーパーヒーローが海に山に都市に空にと大活躍する超大作のような、莫大な興行収入は見込めません。よく許したな、スポンサー。
ですが、監督がリンクレイターだと聞いて、彼ならやりかねない、と納得してしまいました。そして、彼を慕う俳優たちは、きっとノリノリでこの企画に参加したんだろうなとも。

【解説】
今作の主人公の「ボク」ことメイソンJr.(エラー・コルトレーン)が6才の時に両親は離婚します。姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とともに母親オリヴィア(パトリシア・アークエット)の故郷ヒューストンに引っ越すことになりますが、姉弟はバンド活動にばかり熱心な父親メイソン・シニア(イーサン・ホーク)のユーモアにあふれた自由奔放さを愛していました。時折現れる父親を恋しく思いながらも、母の故郷で大人になっていくボクに巻き起こる、青春と成長の日々を綴った、ファミリームービーです。

リンクレイター自身の半自伝的ともいえるストーリーを、彼を信頼する俳優ばかりが集まって今作には、終始ドキュメンタリーのような自然さが溢れています。インタビューでも彼らが語った通り、アドリブや、キャストからのアイデアがとても多いのがうかがえます。
さらに、これはひとつの家族の歴史ですが、たとえば9・11テロやオバマ政権樹立など、アメリカでの歴史的事件もふんだんにストーリーに盛り込まれますし、ボクの青春に寄り添うヒットチューンも、ドンピシャなものが揃います。後半、16歳のボクが友人のホームパーティーで聞くfoster the peopleの「Helena Beat」なんて、まさに最近までラジオから流れていたものだ!と熱くなってしまいます。まるで、同じ時系列に本当にこの家族が生きていたような、そんな高揚感を覚えるのです。
そんな物語の中で逞しく成長する主人公と、姉サマンサの関係性が、本当に見事です。
「好きや嫌いじゃないわ。家族ってそういうものでしょ。」
劇中にサマンサが放ったこの言葉こそ、この映画を通して描かれる「家族」について、そしてわたしたちにとっての「家族」を見事に言い当てた言葉ではないでしょうか。

③ 「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」(2016)
そんなリンクレイター監督の最新作が今作。懐古趣味は昨今のブームのひとつですが、今作の舞台も1980年代のテキサス大学野球チームです。
ここでは紹介できませんでしたが、リンクレイター監督と言えば「スクール・オブ・ロック!」も代表作のひとつです。そんな彼のコメディアンな一面がいかんなく発揮された、ハチャメチャでバカバカしくて、少しだけ切ない青春コメディなのです。
玄人受けの高いリンクレイター作品らしく、今作も世界中の批評サイトで高い評価を得ています。日本では7月からスタートするカリテシネマ・コレクション(http://qualite.musashino-k.jp/quali-colle2016/)を皮切りに、秋には全国公開が決定しています。

【解説】
野球推薦で入学した主人公・ジェイク(ブレイク・ジェナー)は、野球チームで出会った個性豊かなチームメイトたちとともに、大学生らしいバカな青春を謳歌します。可愛い彼女との出会いがあったり、友人のトラブルがあったり、切ない別れがあったりと、それなりに忙しい日々が続きますが、終始ハッピーなムードは途切れることなくラストまで。
今作を彩るのは80年代らしい鮮やかな音楽とファッションですが、さすが監督自身が体感してきた青春の日々だけあって、細部がとてもリアル。観終わったあと、必ずサウンドトラックが欲しくなる、そして80年代に青春を謳歌した世代が羨ましくなる、そんなキラキラした青春映画です。
ですが、そんな日々は確かに終わる。それに、登場人物も観客も、うすうす気づいています。だからこそ、夏の終りが似合う。残暑の夕方に観たい、そんな映画です。

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